2025年度前期開講の「キャリアデザインⅢ」の産学連携PBLクラスでは、ジャーナリストの畑山氏、公認会計士・税理士の杉本氏、株式会社たけでん 人事総務統括部 人事部課長の岡村氏の3名から課題提示があった〔2025年5月12日(月)〕。
畑山博史先生からは、「新入社員の早期離職を防ぎ、3年間で定着率を高める施策の提案」という課題が出された。大卒3年以内の離職率が業界で30~50%台に達する現状を示し、「企業側の立場に立って"学生が残りたくなる会社"を具体的に設計してほしい」と説明。インターンシップの充実、研修・評価制度、社内文化づくりなどを自由な発想で提案し、学生視点を盛り込むことを要請した。また課題提示で紹介したビデオ事例を参考に、離職理由の分析やギャップの解消策などを多角的に検討し、説得力ある資料にまとめるよう指示があった。
杉本篤史先生からは、「生成AIが企業と職種に与える影響を分析し、伸びる業種・縮小する業種を具体例とともに示す」との課題が提示された。ChatGPTなどの事例を交え、事務・翻訳・コールセンターは縮小、AIデータ分析・ヘルスケア・物流ロボティクスは成長の余地が大きいと解説があった。学生には国内外企業の導入実績を調査し、ビジネスモデルの変化や必要スキルを考察した上で、将来のキャリア戦略と結び付けた提案書を作成し、発表してほしいとのことであった。
岡村遼一課長からは、「地域活性化につながるデザイン×リノベーション案の企画」が課題として出された。高度成長期に建てられ老朽化した公共施設や空き店舗を対象に、照明・空調・デジタルサイネージ等を活用して魅力的な空間へ再生し、建設業界と地域経済の持続的成長を同時に実現する提案を求める内容である。学生は活性化したい具体的地域を選定し、インバウンドや国内観光需要を取り込むコンセプト、経済効果、環境配慮を盛り込んだ企画書を作成し、プレゼンテーションを行ってほしいと依頼があった。
課題提示の様子
受講生による課題解決発表会が開催された〔2025年6月23日(月)〕。
1.「新入社員の早期離職を防ぎ、3年間で定着率を高める施策の提案」(畑山先生)
小黒さんの発表では、入社前と入社後の2つの観点から具体的な提案がなされた。特に印象的だったのは、ある企業の採用説明会を例に挙げた部分である。「企業説明会と言いながら、ほとんどの内容が自己分析です。モチベーショングラフを作成して、どういう時にやりがいを感じるのかを大切にしている」と、実体験に基づいた分析を披露した。
畑山先生からは「この課題を出したのは、私が実際に採用担当をした経験から。一緒に仕事したいかどうかも、合否を左右する重要なポイントだった」という実務的な視点が共有され、学生たちは企業の本音に触れることができた。
本村さんは、若い世代の離職理由について「退職代行サービスが流行っているのは、現代の若者が精神的に弱いからなのではと思っていたが、調べてみると3年以内の離職率は横ばいで、離職理由も昔と変わらない」と、データに基づいた分析を発表し、「同じ大学出身の先輩社員の存在が、新入社員の定着に重要な役割を果たすのではないか」という独自の視点も提示した。
学生の発表の様子①
ジャーナリスト 畑山氏
2.「生成AIが企業と職種に与える影響を分析し、伸びる業種・縮小する業種を具体例とともに示す」(杉本先生)
小黒さんは、AIの社会への影響を良い面と悪い面から整理した。「教育支援では語学学習、障がい者支援では信号の色を識別するカメラなど、健常者との差を埋める活用例がある」と具体例を挙げた。一方で「デジタル格差の拡大」や「社会的偏見をそのまま学習してしまう危険性」についても言及し、歴史的人物を題材にしたゲームによって、史実とは異なる認識が広まってしまったという事例を挙げ、AIの判断を鵜呑みにすることの危険性を、身近な例で説明した。
杉本先生は「私も税理士として実際にChatGPTを使って資料を作るが、令和7年の最新情報は間違っていることがあり、使う側のスキルが重要」と実体験を交えてのコメントがあった。「AIに使われるのではなく、使う側になることが大切」とアドバイスした。
学生の発表の様子②
税理士・公認会計士 杉本氏
3.「地域活性化につながるデザイン×リノベーション案の企画」(株式会社たけでん 岡村課長)
小黒さんは「フォトスポットを前提とした街づくり」を提案。「カフェで写真を撮って、話しているうちに『次どこ行こう』となる。背景が可愛いと、ここでも撮る、あっちでも撮るという風に、それだけで時間を消費する」と、若者の行動パターンを分析した。
岡村課長からは「新しいものだけでなく、古き良き素材を生かしたデザインリノベーションという視点が素晴らしい。実際、我々の仕事でも『こういう空間を作りたいから、こういう商品はないか』という問い合わせが増えている」と、実務との関連性が示された。
山廣さんは、石川県和倉温泉に会員制リゾートホテルを誘致する計画を発表。「なぜ和倉温泉を選んだのか」という質問に対し、「大都市圏から2時間以内でアクセスできること、能登半島地震からの復興に貢献できること」と回答した。岡村課長からは、「ビジネスの観点から考えると、市場規模の調査や成功事例の分析があればもっと説得力があった」というコメントがあった。
本村さんは、「推しフェスティバル」でのコスプレイヤーの多さに着目。「シャッター街を更衣室として活用し、アニメのワンシーンを再現した撮影スポットを作る」というアイデアを発表した。岡村課長は「一つの体験から、ここまで話を展開できる創造性は素晴らしい。ただ、市場規模のデータがあればもっと説得力が増す」と評価した。
学生の発表の様子③
株式会社たけでん 岡村氏
課題提示の先生方からは「調べた情報に自分の意見を加えることが大切」、「発表では相手に『なるほど』と思わせることが重要」、「マインドとモチベーションを保ち続けることが社会人として必要」など、実践的なアドバイスが送られた。畑山先生は自身の新聞記者時代の経験を交えながら、「学歴ではなく学習歴が重要。何ができるかが大切。また、会社に使われるのではなく、自分がいることで会社が得をしていると思えるくらいの気持ちを持ってください」と学生たちを激励した。
今回の授業では、与えられた課題に形式的に答えるのみではなく、企業側の視点に立って解決策を導き出すことの大切さを学ぶことができた。また、実際の企業が直面する課題に取り組むことで、問題解決能力やプレゼンテーション力を実践的に身につける貴重な機会となった。
本学では今後も「産学連携PBL」の取り組みを通じ、実社会で活躍できる人材の育成に取り組んでまいります。