2022年度後期開講の「キャリアデザイン入門Ⅱ」の産学連携PBLクラスでは、ジャーナリストの畑山氏および公認会計士・税理士の杉本氏の両名から課題提示があった〔2022年11月7日(月)〕。
畑山氏からの課題は「日本のお酒について、今後どのようにすればより良い世の中になるか」であり、次のとおり説明があった。
課題提示イベント(畑山氏)
最近の若い世代はお酒を飲まないと言われている。1999年の調査では20~29歳男性の飲酒習慣のある人の割合は34%であったが、2019年は12.7%と半分以下に減少した。健康志向の生活習慣の浸透、嗜好の変化、コロナ禍の影響により、国内の酒類市場が縮小している現状を問題視した国税庁は、2022年、「日本産酒類の発展・振興を考えるビジネスコンテスト~サケビバ!」を開催した。酒税の税収に占める割合は約2%に過ぎないが、財政赤字が1000兆円を超えている現状では、見過ごせるものではない。国内需要の低迷で酒造技術の衰退も危ぶまれる一方で、日本酒の海外需要は高く、酒税が課されないノンアルコール飲料市場は近年拡大中である。
畑山氏からは、課題を考えるヒントとして、「過去―現在―未来」のつながりを意識することが大切だ、という話があった。なぜ現状がこうなっているのかという問いの答えは過去にしかなく、現状をしっかり見れば未来がどうなるのかが見えてくる。
杉本氏の課題は「興味のある会社の有価証券報告書をじっくり読み、その会社のどんなビジネスが、今後どのように発展していくのかを考える」であった。動画により、次のとおり課題提示があった。
企業の有価証券報告書には、企業に関する様々な情報が載っている。上場企業は売り上げや役員報酬などの重要な情報を、法律に定められた方法で公表する義務があり、有価証券報告書を読み解けば、その会社の未来の姿が見えてくる。有価証券報告書をじっくり読み、これからの時代がどうなっていくのかについて考えることは、就職活動の際にどの会社で働くかを検討する際に、とても役立つ。最後に、「みなさんがどの会社に注目し、どんなビジネスが成長すると考えているのか、当日の発表を楽しみにお待ちしています」とのコメントがあった。
受講生は協力して2つの課題に取り組み、課題解決発表会が開催された〔2022年12月19日(月)〕。今回の発表会では、グループ分け、課題の選択、テーマの決定、役割分担など、発表会に関わるすべてを自分たちで話し合って決定し、当日の司会進行も学生が担当した。話し合いの結果、2年生2グループ、3年生2グループに分かれることになった。
畑山氏からの課題に、3年次生1グループと2年次生1グループが取り組んだ。
課題解決発表会の様子
3年次生の4名は、「酒税収入減少の対策」と題して、海外からの観光客に日本酒を楽しんでもらうという提案を発表した。海外では日本酒は人気があり、輸出も増加傾向にある。世界各地で日本の酒やおつまみを楽しめるフェスを開き(カンパイフェス="乾杯フェス")、来日観光客に行きつけの居酒屋を作ってもらい(welcomeジョーレンサン="常連さん")、日本産の陶磁器、たとえばお猪口などで飲んでもらう(Yakimonoで飲もう!)という3つの企画により、海外の需要を取り逃がさないようにするとともに、海外人気に牽引されて国内でも国産酒の需要が高まることを狙う。
畑山氏から、「ネーミングから入るのは良い方法であり、よくまとまっていたと思う。こうした企画には財源が必要だが、行政との連携があれば実現しやすく、行政と連携できれば学生でも起業可能なテーマだ」とのコメントがあった。
課題解決発表会の様子
続く2年次生5人のグループは、税収という観点からペット税をテーマに選んだ。犬税などのペット税制につい日本と海外の状況を調べ、日本は現在ペット税を導入していないことを紹介した。ペット税を導入すれば飼い主がペットを飼うことについて毎年税金を払わなければならないため、無責任に動物を飼う人が減り、動物を殺処分や不適切飼育から守ることにつながり、ペットを飼う人は増加していることから税収増にもなるという考えを発表した。
畑山氏からは、「ペット税について海外の事例を参考しながら日本で導入することの是非について考えていた点が良かった」とコメントがあった。杉本氏からは、「ペット税を導入した場合、税収がいくら増えるのか、徴税費用もかなり掛かるはずなので、それも考慮に入れた試算があればさらに良くなると思う」とのコメントがあった。
次に、杉本氏からの課題には、2つのグループが挑戦した。
課題解決発表会の様子
トップバッターは3年次生のグループである。当日欠席のハプニングに見舞われたが、急遽その場で段取りを変更して発表を滞りなく終えた。グループで取り組んだのは、メンバーにとって身近である「ゲーム業界」の任天堂株式会社である。任天堂株式会社の有価証券報告書の検討をきっかけとしてゲーム業界が抱える課題について考え、エンジニアやクリエイターなどの慢性的な人材不足とそれに起因する長時間労働などであると指摘した。その解決策として、専門学校や大学での人材育成、社会人のゲーム業界への転職支援、さらに若い小中学生世代への訴求を提案した。
杉本氏からは、「有価証券報告書をきっかけとして広い視野で業界の問題を指摘できた点が良かった。報告書の業績などを参照して考えを深めたり、同業他社の有価証券報告書を見たりするとさらに良いと思う」とのコメントがあった。
課題解決発表会の様子
次に2年次生6名のグループは、「セブンイレブンの売上を上げるために」と題し、株式会社セブン&ホールディングスの有価証券報告書の検討に取り組んだ。メンバーの1人がセブンイレブンでアルバイトをしていることがこのテーマを選ぶきっかけになった。コンビニという業態のメリットとデメリットを指摘した後、競合他社のローソンやファミリーマートと比較した強みとして、店舗数が多くセルフレジなどの設備導入が進んでいることを挙げた。コンビニ利用客を増やす方策として、プライベートブランド商品の充実による他社との差別化などを挙げ、役員に金融出身者が少ないことを指摘し、今後のさらなる発展には本部の人材を強化することが必要である、として発表をしめくくった。
杉本氏からのコメント
畑山氏からの「今後コンビニ業界はどうなっていくと思うか」という質問に対し、メンバーは「人件費がかかり、人材育成にも課題があるため、将来的にはこれらの点を改善する必要があると思う」と回答した。畑山氏から「今後はビッグデータを活用する時代であり、利用者の動きに合わせた人材配置や無人店舗の導入などの方向に向かうだろう」との指摘があった。杉本氏からは、「人件費は固定費であるとは限らず、アルバイトの給与や残業代は変動費として計上される」との指摘があり、「有価証券報告書をよく読みこんで役員の顔ぶれにも着目したことは良かった」とのコメントがあった。
すべてのグループが発表を終え、授業担当の松本先生より、「今回は急遽欠席者が出て大変だったグループもあったが、どのグループも協力してうまくまとめて発表できたと思う。来週以降は振り返りを行い、うまくいかなかったところはなぜそうなったのかを考え、次の機会に活かしてほしい」というコメントがあり、2022年度後期の「産学連携PBL」は無事終了した。