「私の留学:最初の一歩」~中村 文哉(マインツ専門大学)

外国語学部2年次生 中村 文哉

私の人生初めての長期留学は最悪のスタートだった。

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事件が起こったのはドイツについてから一週間が過ぎた頃で少し慣れて余裕が出てきたときだ。フランスのStrasbourgという町に一人旅に行く途中、その日は快晴で少し歩いただけで汗ばむくらいの気温だった。駅のホームでStrasbourg行きの電車を待っていた時、左腕の袖淵に違和感を覚えた。見てみると袖が盛り上がっていてモソモソ動いていた。何だろうと思った瞬間、私の左腕に稲妻のように電撃が走った。すぐに振り払ったが中にいた物体をついに見ることはできなかった。まるで注射針をおもいきり刺されたようなその痛みは今までに体験したことのない痛みだった。異国の地で体験したせいもあったのか私は少し動揺してパニックになった。さっきまで余裕こいて、外国だということを忘れていた自分はとうの昔にいなくなり、左腕を切断しなければいけないかもとか、このまま緊急帰国しなければならないかもなどというネガティブな考えが頭の中を駆け巡った。そして得体のしれない何かに怒りの感情を覚えた。二十分後くらいには手に力が入らなくなり、これはかなり芳しくない状況に置かれていることを身をもって実感した。一時間後には周りが赤く腫れてきていよいよ死を覚悟した。人は死を身近に感じると深く物事を考えることができるというが、私はなぜ得体のしれない何かが私を刺したのだろうと考えた。それと同時に私の乗るべき電車のプラットフォームを間違えていることに気が付いた。その時、私の思考回路の中に、ある一つの答えが流れ込んできた。それは、「自分の中に気が付かないうちに芽生えていた慢心や高慢の気持ちを、それはいけないことだということをあの何かが教えてくれていた」ということだ。私はその時にはもうあの何かに対する怒りもなく、おごり高ぶっていた自分はいなくなっていた。むしろ今までの自分を反省し、悔い改めようという気持ちでいっぱいになった。それと同時に留学に行かせてもらっているのだから、人よりもっと努力して、この国でより多くのことを経験して、学んで、時には悩んで、一つ一つ壁を乗り越えていきたいと心に誓った。

今を生きている私たちにとって、当たり前のようにして起こる慢心や心の余裕のすき間を狙って、危険や失敗というのは攻め込んでくる。時にはもう手遅れということにつながるかもしれない。私はそれらの危機を未然に身をもって感じさせてくれたあの何かに感謝しているし、今はもう腫れも痛みなく夏の日差しのように跡形もなく消えてしまった。

(2018年9月25日)