外食産業の現状と課題
はじめに
外食産業は、ホスピタリティ産業において、一般消費者が日常・非日常を問わず、高頻度に「おもてなし」の体感をする「最も身近なホスピタリティ産業」といえる。外食産業は、1969年第2次資本自由化による外資導入の規制緩和、そして1970年「大阪万博」を契機に、1997年まで右肩上がりの成長を続け、最盛期には29兆円を超える巨大産業へと成長した。その後、長引く日本経済の低迷に伴い市場規模が縮小するも、依然として23兆円~24兆円の市場規模を維持している。
1.外食産業の定義
「外食産業」の定義は、一般的に「狭義」と「広義」の2種類がある。「狭義の外食産業」とは、「店内で調理された食事を顧客が店内で食べる食事形態の業種」を指し、一般に「飲食店」と称する業種である。「広義の外食産業」とは、狭義に加え、宿泊施設、給食施設、機内食等を含めた業種を指す。本稿においては、主として「狭義の外食産業」について現状と課題を検証する。
2.外食産業の現状
(1)市場規模の推移
外食産業の市場規模は、「公益財団法人 食の安全・安心財団附属機関 外食産業総合調査研究センター」(以下、「外食産業総合調査研究センター」)の発表によると、1975年約8兆6,257億円だったものが、1997年には約29兆702億円へと3倍以上の成長を遂げた。しかし、この年をピークに徐々に減少し、2012年には23兆2,386億円になっている。(図表1)
ここ数年は減少傾向に歯止めがかかり、23兆円~24兆円で推移している。市場規模が減少した原因は、長引く景気低迷と少子高齢化。日本の総人口が横ばいであるにもかかわらず、景気低迷による価格競争をした結果、市場規模が縮小するという悪循環を招いた。またコンビニ等による弁当・惣菜の販売強化による「中食市場」へのシフトも市場規模縮小の一因と考えられる。外食産業総合調査研究センターの発表によると、中食の市場規模は、外食産業のピークであった1997年には約4兆3,000億円だったものが、2012年には約6兆4,648億円へと2兆円強の成長していることからも、中食へのシフトが裏付けられる。
外食産業の市場規模を他産業と比較すると、2011年度スーパー業界の市場規模が約18兆円、コンビニ業界が約7兆円、百貨店業界が約6兆円、そして携帯電話業界が約10兆円。外食産業が依然として非常に大きい業界であるといえる。(図表2)
次に、外食産業の店舗数と従業者数は、総務省「経済センサス・基礎調査」(平成21年)によると、わが国における飲食店数(事業所数)は、67万468店、従業者数は、436万7,987人となっている。この数値は、日本の全事業所数の約11%、全従業者数約7%にあたる。つまり、日本で働いている人の100人に7人が、外食産業に従事している計算になる。これは、外食産業が、日本における雇用の大きな受け皿となっていることを示している。
ここで一つ興味深いデータを紹介する。総務省統計局「事業所・企業統計調査」によると、飲食店数は、ピーク時に平成3年(1991年)84万6,000店であったのが、平成18年(2006年)72万4,000店と、約12万店の減少。一方、従業者数は、平成3年が386万人であったのに対し、平成18年には412万人と、26万人の大幅増加。
店舗数が減少にもかかわらず、従業者数は増加。これは、個人経営店が経営難で大幅に減少する一方、多数の従業者を擁し長時間営業をする大手チェーン店の増加が原因と考えられる。日本フードサービス協会によると従業者のパート・アルバイト比率が88%、つまり多くのパート・アルバイトに支えられている業界である。
(2)株式公開企業と市場占有率
株式公開をしている外食企業は89社。 内訳は、東証55社(1部38社、2部12社、マザーズ5社)、JASDAQ31社、その他3社となっている。
2012年度売上高1位のゼンショーHD売上高は4,175億円で、市場シェアはわずか1.8%、上位10社の売上高合計でも、約1兆7,476億円で市場シェアは7.5%である。外食市場には多数のプレイヤーが存在し、常にオーバーストアー状態にある。(図表3)外食産業と親密な関係にあるビール業界が、上位4社の寡占状態にあることと対照的である。
注:売上高上位企業には、非上場で情報非公開の「すかいらーくHD」と「㈱モンテローザ」が含まれていない。
3.今後の課題
外食産業の今後課題として、「少子高齢化対策」、「海外進出」、「M&Aによる規模拡大」の3点を挙げ検証する。
(1)少子高齢化対策
少子高齢化が叫ばれ久しいが、国の様々な施策を講ずるも効果は限定的で、世界的な人口爆発とは裏腹に、わが国では2007年以降、死亡数が出生数を上回る死亡超過による人口減少が続いている。厚生労働省の人口動態統計によると、2013年の出生数は約103万1,000人(前年比 約6,000人減)であるのに対し、死亡数は約127万5,000人(前年比 約1万9,000人増)と約24万4,000人もの大幅な死亡超過となった。外食産業においても、売上と雇用の両面での対策が急務となっている。
「売上面」では、人口減少は市場の縮小を意味し、売上減少が避けられない。人口の急激な回復が期待できない現状を踏まえ、外食企業各社は2つの対策を講じている。 第1の対策は、成長を続ける中食市場への参入である。外食企業による惣菜専門店やデリバリーサービスの開始、百貨店・スーパー・コンビニとのコラボなど、外食企業で確立したブランドを活かした中食参入が活発化している。例えば、日本料理を代表する「なだ万」は、そのブランド力を活かし、惣菜専門店「なだ万厨房」を全国の百貨店に36店舗展開。また、日本マクドナルドのサラ・カサノバ社長が、現在130店舗で実施している宅配事業「マックデリバリー」を全国に広げていく方針を示すなど、業種業態に関係なく中食への市場参入が拡大している。
第2の対策は、年々増加する訪日外国人の取り込みである。日本政府観光局は、2013年の訪日外国人数が1,036万人に達したと発表。円安やビザの規制緩和により、初めて1,000万人の大台を突破した。東京オリンピックが開催される2020年には、2,000万人を目標としていることからも急増する訪日外国人の取り込みは、不可欠と考える。今後、外国語のメニュー表記やコミュニケーション方法、更に「ハラル対応」に代表される宗教への食材対応など細部にわたるサービス教育が課題となる。
「雇用面」では、若年労働者の急激な減少による人手不足の深刻化である。パート・アルバイト比率の高い業界であることから、若年労働者の確保は外食企業の成長を左右する経営課題である。しかし、少子化で若年労働者の確保が困難となってきたため、中高年の積極的な活用に活路を見出している。また、外国人留学生を中心とした外国人労働者の採用も進めているが、労働ビザの問題もあり、規制緩和が進まないと慢性的な人手不足解消は望めない。
「売上面」の対策は企業努力で克服できるが、「雇用面」の対策は雇用政策にもかかわるため、規制緩和など国の関与も課題となる。
(2)海外進出
かつては典型的な内需産業であった外食産業も、長引く景気低迷、少子高齢化による市場成熟化で、成長市場を求め海外進出を活発化してきている。農林水産省の推計によると、世界の食の市場規模は、2009年には約340兆円(アジア82兆円)であったが、2020年には約680兆円(アジア229兆円)まで成長すると予想されている。国内市場で成長が見込めない中、投資家より更なる成長を求められる株式公開企業が、市場拡大が続く海外に活路を求めざるを得ないという背景がある。
近年、欧米を中心に「ヘルシーフード」として「日本食」が注目を集め、2000年代入り世界的な「日本食ブーム」が追い風となり、海外進出を後押しした。農林水産省の推計よると、「海外における日本食レストラン」の店舗数が、2006年に約24,000店舗(アジア10,000店舗)であったものが、2013年3月現在には約55,000店舗(アジア27,000店舗)にまで急成長。また、2013年ユネスコ無形文化遺産に「日本食文化」が登録されるなど、海外での日本食への関心の高まりにより、アジアを中心とする海外進出に拍車がかかると考えられる。海外進出の事業リスク管理と人材育成が喫緊の課題となる。
(3)M&Aによる規模拡大
前述したように2012年の外食企業の売上高上位10社の市場シェアは7.5%で寡占化が進んでいないと指摘した。しかし、2007年の市場シェアが6.2%であったことを鑑みると、徐々にではあるが寡占化が進行している。この背景には、規模の拡大による「仕入力強化」、「販管費削減」、「顧客囲い込み」など、成長が見込めない国内市場において大手外食企業はM&Aによる生き残りをはかっている。
その典型例は、「すき家」を運営する「ゼンショーホールディングス」である。「ゼンショー」は、1982年「すき家」1号店を横浜市に開業、2000年ファミリーレストラン(以下、FR)「ココス」運営の「ココスジャパン」の買収を皮切りに外食関連企業のM&Aで事業を拡大。2001年焼肉「ぎゅあん」、2002年ステーキ「ビッグボーイ」、2003年「手打ちうどん久兵衛屋」運営の「大和フーズ」、2005年「なか卯」、2007年FR「サンデーサン」・「ジョリーパスタ」、2008年和食FR「華屋与兵衛」、2009年ラーメン「無双」運営の「GMフーズ」、2012年セルフうどん「たもん庵」運営の「多門フーズ」、2013年食品スーパー「マルヤ」を買収。M&Aを繰り返し、仕入力強化や販管費削減をし、様々な業種業態を傘下に収めることにより「顧客の囲い込み」を実現している。2011年には「日本マクドナルドホールディングス」を抜き業界トップになるまでに成長を遂げた。
注:売上高上位企業には、非上場で情報非公開の「すかいらーくHD」と「㈱モンテローザ」が含まれていない。
上記の図表4にあるように、平成25年度中にも数多くのM&Aが成立している。今後は、国内のみならず外国企業とのM&Aが活発化することが予見されるため、資本市場のみならず、会社法や労働法に至るまでM&Aに絡む様々な法整備が課題となる。
4.おわりに
外食産業が、縮小する国内市場と成長する海外市場の狭間で様々な課題を抱えながらも、ホスピタリティ産業の一翼を担い、今後も力強く成長を続けていくことを期待する。
参考文献
「ORA認定 飲食店の接客リーダー入門 -外食産業サービス士1・2・3級対応」、一般社団法人大阪外食産業協会著、TJホスピタリティ出版、2013